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一次創作サイト「BABEL」から派生。スキルアップのためにひたすら掌編を書いていくブログです。テーマはお題配布サイト様から借りています。 
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「……なんで、僕を助けたんだ」
 脇腹を浅くも鋭く切り裂かれた傷口を手当てされながら、彼は苦々しく尋ねました。
 その傷口を彼に与えた私に対して。
 彼と私は敵同士。たまたま同じ分野で生き、同じ場所を目指し、同じものを望む。
 目的地が同じであれば、その道が交差することもあります。獲物が重なれば、そのたった一つのものを争うしかない。
 今回の獲物は、人里離れた古城に眠る禁書の一冊。大分前に持ち主の偏屈な魔術師が死んだけれど、迷宮のような城に仕掛けられた無数の罠が、遺産狙いの盗賊たちの侵入を拒み続けていました。彼は彼の目的のため、私は属する組織の命令で、それを手に入れに来て、いつものごとく鉢合わせたのです。
 途中までは、休戦を持ちかけて迷宮の攻略に協力したりもしました。敵として顔を合わせてもう何度目か、お互いに相手の実力はよく知っています。皮肉なことに、下手な味方よりも目の前の相手の実力が、背中を預けるに値する程頼りになるのです。
 けれどそれも、目的のお宝を手に入れるまでのことでした。
 欲しい獲物はただ一つ。最強の座も常にただ一つ。私も彼もそれを望むなら、戦うしかなかった。
 そして勝敗は決したのです。
 戦いの後でお互い魔力もろくすっぽ残ってはいません。治癒術では足りずに塞がりかけの傷口に薬を塗り、包帯を巻き終えます。
「殺せよ。敗者に情けなんていらない。お前は僕を馬鹿にして、これ以上惨めにさせる気か」
 ぎらぎらと私を睨む視線は手負いの獣のようです。実際に今の彼は手負いですけれど。
 私は彼の首に両手をかける。襟元から差し入れた手は、彼の成長しきらない少年らしい細い首の感触を私に伝えます。
 生白い肌の、薄い皮膚の下で脈打つ血管。君を殺すなんて簡単なんだよ。少し力を込めるだけで、屠られる鶏のように簡単に死ぬくせに!
「誰が君なんか殺すものですか」
 私が言うと、命を握られながらも彼は訝しげに眉を潜めます。
 普段から訳知り顔をして、狂気に憑りつかれた人間の欲望はどれも同じなんてうそぶいて。君は何一つわかっちゃいないんだ。こうして直接触れる滑らかな君の肌に、熱に、私がどれほど昂ぶりそれを自制しているかも。
 か細い緊張の糸を伝える首を私は放しました。彼の目が一瞬の安堵と、次いで先より更に激しい憤怒と憎悪に彩られます。情けでもかけられたなどと、私の行動をまた誤解しているのでしょう。
「ここで僕を殺せば他にあれを狙う奴はいない。それなのに――」
「理由ですか? その方が面白いからです」
 君と張り合わない日常なんてもう考えられない。同じ道を進む同志であり宿敵でもある君との殺し合いは、他の誰との戦いよりも私を熱く燃え立たせる。生きていてくれなきゃつまりません。
 そう伝えると、その眼はまたも強い怒りに染まりました。
「は! 勝者の余裕って奴かよ。ふざけんな、今にその選択を後悔させ――」
「あと、私が君を好きだからです」
「は……」
 私はきっぱりといい、彼はつぶらな目を見開いてぽかんとしました。
 その顔があまりに隙だらけだったもので、私は彼の唇に一つ、悪戯のようなキスをそっと落としたのです。


 了.


 理由ですか? その方が面白いからです。
 お題配布元:確かに恋だった
 
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