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一次創作サイト「BABEL」から派生。スキルアップのためにひたすら掌編を書いていくブログです。テーマはお題配布サイト様から借りています。 
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「お初にお目にかかります、ルシャーレン閣下。わたくしはセフィエラ伯爵の――」
「くだらん自己紹介など必要ない。もともと書類の上で知っているだろう。どうせ政略結婚だ。私は君を顔だけで選んだ」
「なんですって! この最低男!」
 出会いは、確かに最悪だった。
 彼は送られてきた無数の釣り書の山から、最も容姿が好みの相手を顔だけで決めた。いざ対面した姫君は肖像画そのままの美しい顔で、絵からは判断できない負けん気の強さを発揮する。
「こっちだって、あなたのような傲慢男願い下げよ! その御立派な爵位という肩書がなければ、政略とはいえ誰が嫁ぐもんですか!」
「なんだと」
 二人は、絶対にこの相手とは幸せな家庭など築けっこないと、お互いに確信したのだった。


「まったくあなたってば、出会いがしらから酷い人でしたわ」
 麗らかな春の昼下がりの庭園で、若い侯爵夫人は四阿の椅子に腰かけ、夫と腕を組みながら口を開いた。隣に座る新領主は、また始まったと苦笑を妻に投げかける。
「わたくしのことを顔だけの女だなんて」
「私は嘘は言っていないぞ。数ある相手の中からお前を選んだ理由は顔だ」
「まぁ! まだそんなことを仰るの!」
 子どものように頬を膨らませた妻に、彼はますます苦笑する。目の前に座る少女がきらきらと瞳を輝かせて話の続きをねだった。
「それで、その後はどうしたの?」
「そうだな……」
 二人は思い出す。共に駆け抜けた、激動の日々を。はじまりは互いに相手に何ら期待をせず、信頼をせず――……。それがいつの間にか、手を取り合って苦難を超える度、お互いになくてはならない存在となっていった。
「いーい、あなたは大きくなったら、もっと優しくて紳士的な人を選ぶのよ」
 やわらかな髪をリボンで二つに結んだまだ幼い娘に、夫人は真面目くさった顔つきで言い聞かせる。娘は渋い顔の父を眺めながらにこにことそれを聞いていたが、お茶の時間が終わると家庭教師に呼ばれて母屋に戻って行った。
 二人きりになり、妻はまた夫に尋ねる。
「それで――初めての出会いの際には顔でわたくしを選んだあなたは、今はどうなのですか?」
「うむ。――主に好きなのは顔だな」
「もう!」
 先程とほぼ変わらぬ台詞に、妻は夫の腰をぎゅっと抓る。ぷんぷんと怒りながら、自分も娘の後を追うように薔薇園の小道を辿りはじめた。
 夫は相変わらずからかいがいのある妻にすぐ追いつくと、その肩を抱き寄せた。拗ねた顔はそのまま、頬を怒りとは別の理由で赤く染めた妻と共に歩き出す。
 初めは、確かに容姿で選んだ出会いだった。先程の主に好きなのは顔だという宣言にも嘘はない。
 ただ、今は出会った頃と違い、それ以外の全ても愛している。


 了.


 主に顔が好きです
 お題配布元:確かに恋だった
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